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窪美澄 『ふがいない僕は空を見た』
2011.06.26 Sunday
*あらすじ*
これって性欲?でも、それだけじゃないはず。高校一年、斉藤卓巳。ずっと好きだったクラスメートに告白されても、頭の中はコミケで出会った主婦、あんずのことでいっぱい。団地で暮らす同級生、助産院をいとなむお母さん…16歳のやりきれない思いは周りの人たちに波紋を広げ、彼らの生きかたまでも変えていく。第8回「女による女のためのR‐18文学賞」大賞受賞、嫉妬、感傷、愛着、僕らをゆさぶる衝動をまばゆくさらけだすデビュー作。
*感想*
素晴らしい文章力・表現力・構成力で圧倒されました。デビュー作とは到底思えない出来です 広告制作会社からフリーの編集ライターへ、という著者の経歴にもとても納得できる素人離れした秀作ですよ、これは
『ミクマリ』という題で、高校1年生男子(斉藤君)と主婦の不倫話から始まる本書。その後は、斉藤君の周りの人々からの視点で物語が綴られ、連作短編集になっています。この『ミクマリ』が第8回「女による女のためのR‐18文学賞」大賞受賞作品とのことなのですが、私としては、この『ミクマリ』に続く短編たちの構成と内容に、特に惹かれました。
マザコン男、嫁に孫を強要する姑、宗教団体、痴呆老人、万引きする児童、幼児虐待などなど… 色々な欲望と問題を抱えている人々が登場してくるので、少々本書がエグく感じるのですが、読んでいるうちに「それが現実なのかもしれない」とも思えてきました。私が特に読み入ったのは、斉藤君の友人である福田くんを主人公に描いた『セイタカアワダチソウの空』です。斉藤君を友達だと思っているのに、斉藤君を貶めるようなビラを配ってしまったり、理性とプライドを持っていたはずなのに、ふと見かけた店長のお財布に手が伸びてしまったり… また、バイト先で良くしてくれる田岡さんの裏の顔にも非常に「生身の人間」が表れていて深みを感じました。本書は全話通して「生(セイ・いきる)」というテーマがあるとおもうのですが、この『セイタカアワダチソウの空』には、一番その「生」が出ていたと思います。
タイトルは「ふがいない僕は」となっていますが、女性が主人公の短編も含まれているし、「ふがいなさ」を感じるのは本書に登場してくる人々だけではないので、「ふがいない僕(私)は空を見た」でも良いくらいかもしれないと勝手に思いました。センスの良いタイトルですね。私はこれから先、不甲斐ないことが起きたら本書を思い出すかもしれません。
├ 窪美澄 -
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