読書が大好きな主婦の読書記録です☆
年間100作品読破を目指して日々読書に明け暮れ、本を通して感じた事や感動を忘れたくないので、記録として綴っています(*^。^*)
久坂部羊 『祝葬』

*あらすじ*

「もし、君が僕の葬式に来てくれるようなことになったら、そのときは僕を祝福してくれ」自分の死を暗示するような謎の言葉を遺し、37歳の若さで死んだ医師・土岐佑介。代々信州を地盤とする医師家系に生まれた佑介は、生前に不思議なことを語っていた。医師である自分たち一族には「早死にの呪い」がかけられているという―。簡単に死ねなくなる時代につきつけられる、私たちの物語。

 

*感想*

現役医師作家である著者:久坂部さんは近年、終末医療についての問題提起が多く(昨年読んだ『いつか、あなたも』『老乱』など)、本書もまた最期の迎え方について考えさせられる作品でした。

 

本書は5編からなる連作短編集で、主人公というか、軸となる登場人物は、信州で病院を経営する短命医師家系(土岐ファミリー)でした。

各話で、曾祖父から曾孫まで、どういう医療方針のもと医師として働き、どういうプライベートを過ごし、そして最期を迎えたのかが綴られていくのですが、時代の違いと個人の見解の相違から、それぞれ人物たちに濃厚な物語があり、とても面白かったです!!

 

私が一番ドキドキしながら読んだのは、2話目の『真令子』でした。この話は、今までの久坂部さんからは想像できないほどの「愛憎劇」で、久坂部さんの作家としての実力に驚ろかされました!

簡単にあらすじを紹介しますと、土岐伊織と妻の真令子、伊織の従姉(芳美)の三角関係がベースで、そこから真令子と伊織がそれぞれ不貞をはたらく… という物語でした。

このあらすじだけ読むと、全く医療が関係ないですね(笑)

しかし、その愛憎劇から伊織の真っ直ぐ(愚直)な考え方が読み取れ、しかも患者に対しても真っ直ぐ向き合おうとしてしまったばっかりに不幸を招いたりと物語が繋がるので、是非是非読んでみてください。

とにかく、医療が絡んでいない場面での心情描写も秀逸なので読み応えありますよ!

 

そして一通り土岐ファミリーの短命の運命について綴られたのち、最終章の舞台はかなり先の未来へと移ります。

それは現代以上に「死ねない世界」になっていて、ここでまたも「終末医療」について深く深く考えさせられました。

医療のおかげで、早すぎる死を免れた人がいるのは間違いない。しかし忌まわしい長寿を作り出しているのも事実なのでしょう。

では人は一体何歳で死ぬべきなのだろうか。

自身が望む最期を迎えるにはどうしたら良いのか…

 

人の一生の最期については、哲学的、倫理的、感情的に色々複雑な意見があるでしょう。でも本書を読むと、自分がどういう最期を迎えたいのかなんとなく見えてくると思います。

 

少子高齢化社会と、自分の老後に医療を選択するためにも、本書は読んでおくと良いと思います!

もし最期について興味なくても、愛憎劇がチラホラ絡んでくるので、昼トラ的内容としても楽しめるとも思いますので、是非読んでみてくださいね〜〜♪

 

 



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久坂部羊 『芥川症』

 

*あらすじ*

父の死因とは一体何だったのか? 食い違う医師・看護師の証言。真相を求め、息子はさまよう(「病院の中」)。多額の募金を得て渡米、心臓移植を受けた怠け癖の男と支援者たちが巻き起こす悲喜劇(「他生門」)。芸術を深く愛するクリニック院長と偏屈なアーティストが出会ったとき(「極楽変」)。芥川龍之介の名短篇に触発された、前代未聞の医療エンタテインメント。黒いユーモアに河童も嗤う全七編。

 

*感想*

久坂部羊さんの作品といえば、医療系がテッパンなのですが、なぜに装丁で白衣を身にまとった芥川龍之介が描かれているのかが気になり読んでみましたるんるん

 

その芥川龍之介が描かれている理由は、目次を見た時には「あれ?これって?なんだか似たような題名の芥川作品あったよね??」という程度なのですが、読み進めてみたら、完全に芥川作品を医療現場や医療従事者という久坂部さんの十八番フィールドに落とし込んだ(パクった?インスパイアされた?オマージュされた?)パロディ作品ということがわかりましたイヒヒ(笑)本書のタイトルと、その元となったと思わる芥川作品のタイトルはこちら↓

 

 

久坂部作品  芥川作品

病院の中   ← 藪の中

他生門    ← 羅生門

耳      ← 鼻

クモの意図  ← 蜘蛛の糸

極楽変    ← 地獄変

バナナ粥   ← 芋粥

或利口の一生 ← 或阿保の一生

 

こうやって一覧にしてみたりすると、いつも少々お堅い作品のイメージがある久坂部さんにもユーモアがある方なんだな〜わーいと思ったし、実際に本書の『クモの意図』では、病院内に出現したクモに名付けしようと「クーモン(くまもんのパクり)」「スパッシー(ふなっしーのパクり)」「チュラちゃん(ちゅらさんのパクり)」などで盛り上がるところはかなり笑えました。しかし、全体的には私は芥川作品に精通していないので、タイトル以外の内容面では、どの程度オマージュされているものなのか判別できず、楽しみが半減してしまった気がします。なので、学校の授業以来読んでいない芥川作品を再び読んでみたくなりました!!ちょっと図書館で探してみようかな桜

 

芥川ファンの方にはお薦めな1冊だと思うので、是非読んでみてくださいね〜ムード



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久坂部羊 『いつか、あなたも』

 

*あらすじ*

在宅医療専門クリニック看護師のわたしと新米医師、院長らが、患者本人と家族、病とその終焉に向き合う。

終末医療、看取り、安楽死、死後処置カルテに書かれない六つの物語。

 

 

*感想*

在宅医療専門クリニックの看護師の視点を通して、終末医療と人の最期について考えさせられる物語でした病院

 

先日、久坂部さんの認知症を描いた物語『老乱』を読んだばかりで、「またそういう系(老いや最期)の本読んでいるの〜〜?」なんて言われてしまいそうですが、超高齢化社会の今、こういう話題が気になってしまうのですよね…ついついたらーっ

 

本書は、ガンの末期、筋肉が萎縮し体が動かなくなる病気の末期、認知症、などの人々の在宅医療をそれぞれ短編で描いていた物語で、あとがきで久坂部さんが「ほぼすべて実話に基づいています。」とおっしゃっています。

なので、どの物語も壮絶ともいえる病状、介護状況、死体処置が詳細に綺麗ごとなく描かれていて、まだ近親者のお別れに立ち会ったことのない私には衝撃どんっともいえる箇所がいくつかありました。。。

 

第1話目の『綿をつめる』で、ご遺体の体内を空っぽにし綿をつめていく記述が詳細に綴られるのですが、鼻・口・耳だけでなく下半身にも綿を詰めるとは知りませんでした…汗 ここの具体的な記述で、本書は「人と人とのお別れを美しく描いた“お涙頂戴物語”ではなくて、亡骸から大便を掻き出し綿を詰める作業がある“これが本当の人間の死というもの”なんだ」という“現実の死”を目の前に叩きつけられ、はっ!と目が覚めた気がしました。

 

その後の物語からは患者さんの病状とその介護者の苦悩がメインで描かれていくのですが、それはとても過酷で、「人はそこまでして長生きする意味があるのだろうか?」とも考えさせられました。本書は現場の現実を本書を通して伝えているだけなので深くは書かれていなかったのですが、尊厳死と安楽死をもっと議論する時になっているのではないかと、最終話の『セカンド・ベスト』から、読んでいてやんわりと伝わってきました。

 

20年以上前に『病院で死ぬということ』という本が有名になりましたが、本書は『自宅で死ぬということ』という視点で読んでみると良いかもしれません。

いつか、あなたも、亡くなる。

いつか、あなたも、介護されるかもしれない。

いつか、あなたも、介護するかもしれない。

だからこそ、読んで損のない1冊だと思いますよ桜

 

 



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久坂部羊 『老乱』

 

 

*あらすじ*

在宅医療を知る医師でもある著者が描く迫力満点の認知症小説。
老い衰える不安をかかえる老人、
介護の負担でつぶれそうな家族、
二つの視点から、やっと見えてきた親と子の幸せとは?
現実とリンクした情報満載の新しい認知症介護の物語。

医師、家族、認知症の本人の
それぞれの切実な“不都合な"真実を追いながら、
最後にはひと筋の明るいあたたかさのある感動の長篇小説。

 

 

*感想*

高齢化社会と呼ばれる現代、皆さんの周りには介護が必要なご家族がいらっしゃいますか?

私には差し迫って介護が必要な親族はいないのですが、介護疲れからくる事件を新聞やテレビで目にする度に「将来の自分」になるのではないかとドキっとさせられています… 

 

本書は、認知症になった義父(介護される側)と、その嫁(介護する側)の視点を交互に描き、認知症の辛さを双方の視点から丁寧に、リアルに描いた骨太作品でした。途中に介護に関する新聞記事も差し込まれるので、物語に客観性と社会の認知症に対する受け止め方も知ることができて、本当に素晴らしい作品で読んで良かったです桜

 

介護される側とする側の苦悩と苦悶が詳細に描かれているので、とにかく読んでいて切なく苦しい作品でしたポロリ 義父の徘徊、排せつの失敗、さらには自分の息子を殺しかけるという狂乱には「こんな事をされたら、介護する側が介護疲れに陥るのも仕方ないし、もう施設に入れるしかないよな…」と思ってしまうのですが、「施設に入れるということは、育ててもらった恩を忘れ、親を見捨てようとしていることなのではないのか泣き顔」という考えも出てきて介護する側の雅美と知久と一緒に悩み、苦しくて辛くて胸が痛くなりましたポロリ

 

更に本書が秀作なのは、同じ場面を介護される側の幸造の目線綴られるところなのです。その時に、幸造は何を考え、どう感じてそういう行動をとってしまったのか…認知症なので明確な理由や根拠がなく、支離滅裂ともしているけれど、それでも認知症の人なりに「家族の迷惑になりたくない」などの強い考えと思いがあって、そういう行動にでてしまうことだったり、幸造自身も「俺は厄介者…早く死にたい」と思っていたりして、大切な家族で、大切な命なのに、認知症という病気のせいで、バランスが崩れてしまう心身と人間関係に涙が止まりませんでしたポロリ

 

しかしそんな苦しい場面だけではなくて、本書ラストには、介護に対しての向き合い方と、幸造の穏やかな最期が描かれていて安心し、勉強になりました。それはフィクションがなせる業の理想論かもしれませんが、でも「認知症を否定することは、本人を否定しているのと同じ」という本文は目からウロコだったし、本書を読んでおいたおかげで、何か私の介護に関する未来が変わった気がします。

 

親族の介護もそうだし、自身の老後のことを思っても読んで絶対に損のない1冊だと思います。是非是非読んでみてください!!!!ぴかぴかぴかぴか

 

 



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久坂部羊 『嗤う名医』


*あらすじ*
“嫁”の介護に不満を持つ老人(「寝たきりの殺意」)。
豊胸手術に失敗した、不運続きの女(「シリコン」)。
患者の甘えを一切許さない天才的外科医(「至高の名医」)。
頭蓋骨の形で、人の美醜を判断する男(「愛ドクロ」)。
ストレスを全て抱え込む、循環器内科医(「名医の微笑」)。
相手の嘘やごまかしを見抜く内科医(「嘘はキライ」)。
本当のことなんて、言えるわけない。真の病名、患者への不満、手術の失敗。現役医師による、可笑しくて怖いミステリー。

*感想*
医療内容を絡めたエンタメ短編小説集でしたるんるん
全話に医師や病院が登場して専門的な話も登場しつつも大変読み易い文章で、しかも短編でもしっかりとミステリーあり、笑いあり、おぞましさありで読み応えのある短編ばかりだったため、飽きる事なくササーっと読めて面白い1冊でした桜ぴかぴか

各話それぞれの面白さや哀愁があったのですが、私が気に入ったのは3話目の『至高の名医』です。院長さえ一目置く看板部長の清河が、自他共への潔癖さを貫こうと苦心したり、そしてたった一度の誘惑(過ち)でとんでもない死刑か否かの判決を受ける様な事態に陥ってしまい…と非常にハラハラ爆弾しました。
そしてそういう窮地を経験した者は他者に優しくなれるってものだよね…とも思ったり、構成的にも精神的にも面白かったです。

『愛ドクロ』唖然では人の頭がい骨について多く語られるのですが、頭の形があまり良くない人を「下品な頭がい骨しやがって」みたいにこき下ろすくだりは、絶壁の私にとってちょっと悲しかったですー。ちなみに我が子2人も絶壁(涙)頭の形にコンプレックスを抱いている人にはちょっと読んでて嫌な気分になることもあるかもしれない作品でしたたらーっ

『白い巨塔』まではいかないけれど、大学病院の教授選についての話もあったり、思考を凝らした作品集なので、是非とも読んでみてくださいね〜ぴかぴか


  ├ 久坂部羊 -
久坂部羊 『悪医』


*あらすじ*
治療法がない―患者に死ねというのか!?再発したがん患者と、万策尽きた医師。
「悪い医者」とは?と問いかけ運命のラストが待つ。悪の深さを描く著者の傑作。書き下ろし長編、感動の医療エンターテインメント。

*感想*
日本人の死因第一位が癌であることは、多くの国民が知ることだと思いますが、もしも自分が癌に罹り、医師から「もう治療法がありません。余命は○月です」と宣告されたら、自分はどの様な状態になるのかを皆さんは想像されたことがありますか!?
私はなんとなく想像をしたことはありましたが、その想像がいかに甘く、そして結局は「まだまだ健康体で生きられる」という安全区域からの傍観的想像でしかなかったということを、本書を読んで気が付かされました汗

本書には2人の男が登場します
一人は『患者』である52歳男性、小仲辰郎。小仲は早期の胃癌を手術したが、その後肝臓への転移が発覚。小仲は最後まで希望を捨てずにがん治療を受けたい。
もう一人は『医師』である35歳男性、森川良生。森川は患者に余命宣告をし、怒りの感情をぶつけられ、治療続行を懇願され動揺する。しかし森川は抗がん剤の副作用で気力体力を消耗させられ寿命を縮めるよりも、QOL(Quality Of Life)の向上を推進したい。

この2人の視点を通して、『ガン治療とは』『悪い医師とは』というテーマが語られていくのですが、語られれば語られる程に、医師と患者の認識と感情と見解の違いが浮き彫りにされていって、ガンと戦う人々の過酷さを痛感させられました。特に副作用の影響で嘔吐や嫌悪感が起きている描写がとてもリアルだった(さすが医師の書いた小説!!)ので、治療を打ち切った方が良いという医師側意見も、そしてこの苦しみを乗り越えたらガンが治るという希望を持ってしまう患者の気持ちがよく伝わってきて感情移入でき胸が痛かったですポロリ

この2者を共に納得させることができる治療や言葉があるのか、是非とも本書を読んで答えを見つけてみてください。2人の男の人生の意味を考えさせられる良いフィクションであり、そしてガンという弱味につけこむ商売や、大学病院の入院日数に関する経済的現実問題という実用書的な面もあるので、本書は絶対にお勧めですよ〜ムード


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久坂部羊 『神の手』

*あらすじ*
現代医療では、安楽死の問題は避けて通れない。法律では認められていないが、それに近いことが、現場ではさまざまな形で密かに行われている。安楽死は慈悲か、殺人か。それを行う医師は「神の手」を預託されたのも同然である。安楽死法の制定をめぐって、医師、患者、政治家、官僚などが、それぞれの思惑から闘いを繰り広げる。安楽死法が制定されていちばん得をするのはだれなのか。医療の世界の光と闇を、余すところなく描き切る。

*感想*
今まで考える機会がなかったとはいえ、「安楽死」とは非常に複雑で繊細な問題だと、強く感じさせられた作品でした。

本書の凄いところは、安楽死をめぐり「医師側」と「患者側」だけの問題ではなく、法整備をめぐる「政治的問題」と「世論」をも詳細に描いた、完全なる『社会的小説』になっているところだと思います。とにかく現実社会でこの「安楽死問題」が勃発した時に、関わってくるであろう人物が勢ぞろいで登場してくるので(ジャーナリスト、弁護士、警察、製薬会社などなど)、とてもリアリティに溢れています。ただ、政治的問題や利権問題が強く描かれすぎていて、エンターテインメントの世界を超えてしまっていたかな。私としてはもう少し軽く読みやすい内容にしてある方が楽しめたわ〜。

非常に濃い内容の話だけれど、本書を通じて「若い患者ほど安楽死が必要な場合がある」という現状を知るだけでも、「安楽死観」を左右する大きな知識になると思うので、多くの方に本書を勧めたいです。



  ├ 久坂部羊 -
久坂部羊 『無痛』

*あらすじ*
見るだけですぐに症状がわかる二人の天才医師、「痛み」の感覚をまったく持たない男、別れた妻を執拗に追い回すストーカー、殺人容疑のまま施設を脱走した十四歳少女、そして刑事たちに立ちはだかる刑法39条―。神戸市内の閑静な住宅地で、これ以上ありえないほど凄惨な一家四人残虐殺害事件が起こった。凶器のハンマー他、Sサイズの帽子、LLサイズの靴痕跡など多くの遺留品があるにもかかわらず、捜査本部は具体的な犯人像を絞り込むことができなかった。そして八カ月後、精神障害児童施設に収容されている十四歳の少女が、あの事件の犯人は自分だと告白した、が…。


*感想*
内容を欲張りすぎて上手く纏まりきれていない話に思えました。『廃用身』『破裂』と前2作品が面白かっただけに、少々残念だったわ…

冒頭で、神戸の閑静な住宅街で一家4人が惨殺されるというは衝撃的で、一気に本書に引き込まれること間違いないと思います。しかも犯罪現場は凄惨で、その手口には人間的な躊躇はいっさい見られないということから、たとえ犯人を警察が逮捕しても「心神喪失者の行為は、罰しない。心身耗弱者の行為は、その刑を軽減する。」という刑法39条が適応されてしまうのか?と刑事が苦悩する辺は、読者にも39条の壁を考えさせる良い展開になり、その後の本書の行方をとても期待できる様に思えました。 しかしストーリーはいつの間にか、外見だけで健康状態や病気の進行状態を読み取ることのできる医師の話になり、元旦那のストーカーに悩む女性の話になり、そして「先天性無痛症」のイバラが登場して… と本書の軸が段々と見えなくなってしまいました。

とにかく登場人物全員のプライベートな部分を描きすぎだったと思います。白神医師がどんなコンプレックスや嗜好を持っているか、詳細に描く必要を感じなかったし、刑法39条を突き詰めるつもりがないのなら早瀬刑事や警察内部の事情も細かに描かなくて良かったのではないでしょうか。

ラストが続編をも書けそうな締め方だったのですが、もしも続編が出版されても私は読まないかなぁ



  ├ 久坂部羊 -
久坂部羊 『破裂』

*あらすじ*
医者の診断ミスで妻を傷つけられた元新聞記者の松野は、“医療過誤”をテーマにしたノンフィクション執筆を思いつく。大学病院の医局に勤務する若き麻酔科医・江崎の協力を得て、医師たちの過去の失敗“痛恨の症例”や被害患者の取材を開始した。その過程で、「父は手術の失敗で死んだのではないか」と疑念を抱く美貌の人妻・枝利子が、医学部のエリート助教授・香村を相手に裁判を起こす。が、病院内外の圧力により裁判は難航。その裏で医療を国で統制しようと目論む“厚生労働省のマキャベリ”佐久間が香村に接触を始める…。枝利子の裁判の行方は?権力に翻弄される江崎と松野の運命は?そして佐久間の企図する「プロジェクト天寿」とは?大学病院の実態を克明に描き、来る日本老人社会の究極の解決法まで提示する、医療ミステリーの傑作。


*感想*
「廃用身」で鮮烈なデビューをした久坂部羊の2作目です。2003年に「廃用身」が出版され、その翌年の2004年に第2作目となる本書を出版するというなかなかのハイペース振りに驚きました。しかも本書は単行本で450ページの2段綴りとなっている長編作 著者の本業は医師とのことなので、医師業の傍ら、いつ執筆しているのかと不思議に思う程の大作、かつ濃い1冊でした。


本書は文字数の多い作品なのですが、その文字数に見合う程にさまざまなエピソードが込められています。・医療過誤 ・医療裁判 ・大学病院の教授制度 ・超高齢化社会の行く末 ・老人医療のあり方 ・尊厳死 ・官僚による社会コントロール などなど… こんなに盛りだくさんな内容なのに、医療裁判の時系を軸に細かい内容を展開していく構成は見事で、飽きたり混乱することなく本書の世界にはまりました
特に「高齢化社会への警告」は前作「廃用身」に引き続き、とても力を入れて書き込んであり、久坂部氏がどれ程に高齢化社会について心配しているのかが伝わってきました。そして本作に登場する高齢化社会への打開策として、安楽死的な医療を社会に浸透させるというものが出てくるのですが、その説明文がまた上手いんです
「日本を安楽死の先進国にしたいのです。幸い、日本にはすばらしい伝統がある。潔さを尊び、執着を恥じる文化です。ポックリ死という言葉があるでしょう。このユーモアあふれる言葉は、日本人がそれを肯定的に捉えていることの表れです」
この日本の文化を用いての説明・説得には、著者の文章のセンスと力強さを感じ、ただの猟奇的作家ではないという実力を感じました。


読後感は決して気持ちが良いものではないけれど、医療過誤も高齢化社会も他人事ではないので、一読の価値があると思います。少々重い内容にも耐えられる方は是非読んでみてください




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久坂部羊 『廃用身』


*あらすじ*
「廃用身」とは、脳梗塞などの麻痺で動かなくなり、しかも回復の見込みのない手足のことをいう医学用語である。医師・漆原糾は、神戸で老人医療にあたっていた。心身ともに不自由な生活を送る老人たちと日々、接する彼は、“より良い介護とは何か”をいつも思い悩みながら、やがて画期的な療法「Aケア」を思いつく。漆原が医学的な効果を信じて老人患者に勧めるそれは、動かなくなった廃用身を切断するものだった。患者たちの同意を得て、つぎつぎに実践する漆原。が、やがてそれをマスコミがかぎつけ、当然、残酷でスキャンダラスな「老人虐待の大事件」と報道する。はたして漆原は悪魔なのか?それとも医療と老人と介護者に福音をもたらす奇跡の使者なのか?人間の誠実と残酷、理性と醜悪、情熱と逸脱を、迫真のリアリティで描き切った超問題作。



*感想*
かつてない衝撃を受けた作品でした。こんな凄い作品を書ける作家が世の中にいて、しかも本職が医師だというからまた驚きです。海堂尊氏とはまた違った切り口の医療小説で、大変翻弄されました


予備知識なく本書を読み始めると「あれ?これって文芸書ではなくて、ノンフィクション小説」と混乱するかもしれません。というのも本書の前半は、“漆原医師が老人医療についての現状と新療法について綴った原稿”という形で描かれ、後半は“漆原医師に執筆を説得した、出版社の編集部長(矢倉俊太郎)の視点から見た、新療法と漆原医師の真の姿”が書かれ、まさに『本の中に本がある』作りになっているからです。この作りは巧妙で、まえがきやエピローグはもちろんのこと、奥付(書物の末尾に、書名・著者・発行者・印刷者・出版年月日・定価などを記した部分)までも書かれている力作でした。


『本の中に本がある』という作風が面白い事もありますが、本書の実力は漆原医師を通して語られる、老人医療と介護の問題でしょう。破綻しかかっている政策、少なくない老人虐待、介護者に従順にならざるおえない老人達の心情など、もう他人事ではなく一人一人が高齢化社会の将来を考えなければいけない問題なのだと実感しました。そしてこれら多くの問題を打開するべく漆原医師が生み出した“禁断の新療法=Aケア”は非常にショッキングで度肝を抜かされるのですが、漆原医師の理論を読んでいるとそれが「悪い事」とは思えず、むしろ「自分も麻痺のある要介護者になったらAケアをお願いしてしまうかも…」と思ってしまいました。


今後の高齢化社会をどうするのか?そしてAケアが定着する日がくるのか?考えさせられること間違いなく、読み応え満載作品です。この衝撃を是非ご自身で味わってみてください

 

 



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